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建築家
伊礼智さんが追求し続ける「設計の標準化」
ソーラータウン久米川からはじまった相羽建設との協働
- 話し手:
- 伊礼智設計室
伊礼智さん|建築家 - 場 所:
- つむじ「i-works2015」|取材:あいばこ
- 設 計:
- 伊礼智+福井典子|伊礼智設計室
- 施 工:
- 相羽建設(株)
People
伊礼智さんが建築家として独立したのは1996年のころ。
それから4年後、OM研究所に間借りして事務所を立ち上げたばかりの伊礼さんのところへ急に舞い込んできたプロジェクトは、「OMソーラーシステムを全棟に採用した小さなまちをつくりたい」という地域工務店によるソーラータウン計画でした。周辺の分譲住宅に比べると価格が高く「ぜったいに売れない」と言われながらも、伊礼さんの設計の標準化の追求とともに動き出した「ソーラータウン久米川」のまちづくり。
ここから、伊礼さんと相羽建設の協働がはじまりました。
伊礼さんと相羽建設の出会い
ソーラータウン久米川のプロジェクトがきっかけとなった伊礼さんと相羽建設の出会いは、相羽建設の相羽正さん(現・会長)が全戸にOMソーラーを搭載した分譲住宅をつくりたいという話をOM研究所に持ち込んだところからはじまります。
(※OMソーラー:建築家の奥村昭雄さんが開発した空気集熱式のパッシブソーラーシステム。太陽の熱エネルギーを床下コンクリートに蓄熱して床暖房にするなど、再生可能エネルギーで温熱環境の底上げを実現する技術として全国に普及。2017年に30周年を迎えた)
当時OM研究所のチーフデザイナーだった迎川利夫さん(現・相羽建設常務)は、いくら良い住宅をつくったとしても他の分譲住宅よりも1000万円程度高くなってしまうし、普通の販売方法ではなく、住まい手に暮らしの舞台となる家の価値を伝えないと、きっとこのプロジェクトは失敗するだろうと思っていたんだそう。
このソーラータウン久米川のプロジェクトは、短期間で綺麗な街並みをつくらなければならず、建て売りではなく「売り建て」のため施主の要望も聞き入れて設計しなくてはならないという難しさもありました。
一方、伊礼さんはこのプロジェクトがはじまることにワクワクしていたとお話しされます。
それは、コストを抑えながら工期を短縮化しなければならないこのプロジェクトには「設計の標準化」が鍵だと気がついたからなんだとか。
伊礼さんは以前勤めていた設計事務所や自身の設計事務所での仕事で、それまでも設計の標準化に取り組んでこられましたが、幾度も消化不良の思いをされたのだそう。そんな経験から培ってきた設計手法と合理化の工夫を応用すれば、このプロジェクトはきっと上手くいく、、と確信していたそうです。
こうして、伊礼さんと相羽建設によるソーラータウン久米川のプロジェクトが進んでいくことになりました。
ソーラータウン久米川を成功させるために
短期間で低コストに納める必要のあるこのプロジェクトには、「設計の標準化が鍵だ」と伊礼さんはお話しされていましたが、一方で標準化をしすぎてシステム住宅のようにならないことが懸念事項でした。
そんな中で思いついたのが、一部屋丸ごと標準化し、残りの部分を施主の要望を取り入れて少しずつ変化させていくという方法。
このやり方が最もスピーディーでこのプロジェクトに合っていたんだそう。
CADを使った標準化設計に加え、迎川さんが今まであまりにも時間がかかりすぎていた見積もりをスムーズにするためのソフトをつくったことで、とてもスムーズにプロジェクトは進んでいきました。
ソーラータウン久米川の造成工事中に、近くで1棟モデルハウスを建て見学会を続けました。日中来ることが難しい人のために夏はナイター見学会も開催しました。相羽建設と伊礼智さん永田昌民さんで住まい手に『永く快適に暮らせる家の価値』を伝えるために5回1セットの勉強会を3セット開催しました。
結果、この住まいに共感し好んでくださる人たちがたくさん現れていきます。
他の分譲地よりも価格が高く売れないだろうと思われていたこのソーラータウン久米川も、価格差を超える新しい家の価値を具体的に伝えてきたこともあり、1年半ほどで完売することができました。この分譲住宅完売後も、新しい住宅の価値を求める人たちに、家づくりで本当に大切なことを伝える見学会や勉強会を続けました。
標準化するということ
ソーラタウン久米川のプロジェクト以降、伊礼さんは「設計の標準化」の追求をご自身のライフワークとして長年取り組むことになります。設計する家が毎回異なるデザインであることを重視する建築家も多くいる中で、伊礼さんはなぜ「設計の標準化」にこだわるのか?
その理由を詳しくお聞きしました。
伊礼さんは「自分が設計した住宅は、写真を一目見れば伊礼が設計したとわかるような建築家になりたかった」とお話しされます。
建築家には同じものを2度と作ってはいけないという暗黙の了解のようなものがあるそうですが、伊礼さんによって標準化された設計手法は、それとは全く真逆のものです。
住宅の設計を一坪ごとに標準化して、何度も繰り返しながら改善していくことで、設計やデザインがブラッシュアップされていくのと同時に、職人さんによる施工精度も向上し、完成時のクオリティーが上がっていきます。
「標準化された設計こそ住まい手に喜んでもらえる」と伊礼さんは断言されます。
設計を標準化する中でもディテールの納まりをしっかりと詰めることで、伊礼さんの作風が自然と生み出され、住宅の質を上げているのです。
ソーラータウン久米川からはじまった「設計の標準化」の取り組み。それを通常の住宅設計にも活かしたい、、、と「i-works」の家づくりが本格的に始動していきました。
伊礼さんと相羽建設は標準化した居心地の良い木の家を追求を続け、両者の協働による住宅事例は現在、70を超えるまでになります。
そして2014年、伊礼智さんの「住宅の高性能化への挑戦」をテーマに、東村山市のつむじに新しいモデルハウスを建築することになりました。
つむじ「i-works2015」で目指したもの
相羽建設が地域とつながる拠点となる「つむじ」で、伊礼智さんとの「i-works」の新しいかたちを模索するために、いくつかのテーマが掲げられています。
<i-worsk2015が目指したこと>
●『性能』×『デザイン』×『コスト』のバランス
●i-worksらしく、たのしくカスタマイズ(編集)できる家であること
●『時間のデザイン』すなわち住み手が暮らす中での変化に
対応できる工夫をこらすこと
●Q値=1.9程度(住宅の温熱性能を表す指標)を実現すること
「i-works2015」は3.5間角の間取りベースに、伊礼さんが追求する「設計の標準化」の手法を活かしてデザインされました。
磨き抜かれたそのシンプルなプランは、様々な敷地に対応して庭もつくることができ、下屋の工夫で無限のバリエーションが生まれる、住宅設計の“一つの解”と言えるものです。
「設計の標準化」が生み出す、永く住み続けられる家
「設計の標準化」から、一歩踏み込んでより汎用性を持たせたi-worksの家づくり。誰もが住みたいと思うような実用的なデザインを目指し、標準化された設計手法を採用しながらも、心地の良い居場所をたくさん設け、家と外の間を丁寧に考えた住まいです。そして、内と外の間の空間を大切にされるのは「間(あいだ)の空間が豊かだ」と考える沖縄出身の伊礼さんだからこそ。
ソーラタウン久米川のプロジェクトからはじまった伊礼智さんと相羽建設の「設計の標準化」。インタビューのおわりには、「永く住み続けられる家」をテーマにこれからも追求していきたいと、笑顔でおっしゃってくださいました。
Movie
伊礼智さん「i-works2015」トークショー
2015年2月末に竣工、お披露目となった「つむじi-works2015」の完成見楽会とあわせて開催された伊礼智さんによる講演会の様子を収録した映像です。
話し手:伊礼智・迎川利夫
取材・インタビュー:相羽建設(株)広報部 吉川 碧・伊藤夕歩
記事編集:相羽建設(株)広報部 小林央菜乃
取材後記
今回は設計の標準化についてお話をお伺いしました。伊礼さんはこれまでに様々な書籍を発表し、講演会にも多数登壇されています。
この本「オキナワの家」では、沖縄の歴史と沖縄の人の住まいや暮らし方の歴史も書かれています。
この本を読めば。伊礼さんが大切にしている「間」の魅力を知ることができるかもしれませんね!
話し手プロフィール
建築家
伊礼智さん
1982年琉球大学理工学部建設工学科計画研究室卒業後、1985年東京藝術大学美術学部建築科大学院修了。丸谷博男+エーアンドーエーを経て、1996年伊礼智設計室開設。2005年より2016年で日本大学生産工学部建築工学科「居住デザインコース」非常勤講師。2016年より東京芸術大学美術学部建築科非常勤講師。 2012年「i-works project」建築家・工務店・メーカーの協業による豊かな住まいづくりを立ち上げる。2013年「i-works project」でグッドデザイン賞、2014年「守谷の家」、2016年「つむぐいえ」でグッドデザイン賞。2017年「高岡の家 もみじ」でウッドデザイン賞、「つむじ」でJIDデザインアワード2017 BEST100。